障がい者等の読書環境の整備について(答申)

 

第1章 諮問の趣旨

大分県立図書館(以下「県立図書館」という。)は、「だれでも、いつでも、どこからでも」利用できる社会教育施設としての機能を果たすとともに、県民の教養・文化の向上に寄与するため、活力ある全県的な図書館活動を推進している。

県立図書館は、毎年延べ40万人を超える人に利用されているが、利用者の実人数ははるかに少ない。利用できる環境あるが、利用していない人も多いと思われるが、障がい等様々な理由により図書館を利用できない人もいると考えられる。
こうした中、平成28年に障がいを理由とする差別の解消を推進することを目的とする「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という。)、令和元年には、障がいの有無に関わらず全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に寄与することを目的とする「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(以下「読書バリアフリー法」という。)が施行された。これにより、何らかの理由で図書館を利用することができない、本を読むことが難しい人への配慮が、なお一層求められることとなった。
これまでも県立図書館では、重い障がい等のため来館することが難しい人への宅配便での貸出しや市町村図書館を通じての貸出しを行っており、また令和3年度から視覚障がいやディスレクシアなどの理由で活字による読書が難しい方を対象に、サピエや国立国会図書館の送信サービスを使ったサービスも始めている。しかし、コロナ禍の社会において、あらゆる面でDXが急速に進められる中、図書館として、その機能を十分に果たすうえで、サービスのあり方を見直す必要があると考える。
このため、障害者差別解消法や読書バリアフリー法の理念も踏まえ、特に障がい等により図書館サービスをうまく利用できない人に対するサービスの充実を図ろうとするものである。

 

 第2章 現状と課題

1 現状及び環境の変化

(1)県立図書館の入館者数
令和3年度の県立図書館の入館者数は、316289人であり、令和2年度よりも増加しているが、令和元年度に比べて約13万5千人減少している。コロナの影響があることも想定されるが、中期的に見て減少傾向にある。

 

(2)利用登録者数
利用登録者数は、ほぼ横ばいの約24万人であったが、障がい者サービス(身体障がい者、精神障がい者、視覚障がい者等の手帳所持者等が登録により利用できるサービス)の利用登録者は89人(令和3年度利用登録者数)にとどまっており、その大半は身体障がい者である。
県内には、身体・知的障がい者、高齢者、外国人、地理的な理由等、様々な状況により読書や図書館の利用に困難を伴う人も相当数在住していると考えられ、こうしたサービスの利用が広がらないのは、障がい者サービスの存在が周知されていないこと、また知っていても利用できない、あるいは利用しにくい状況があることが考えられる。

 

(3)情報格差の解消に向けた法的枠組みの整備
令和4年5月24日、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関する法律」が施行され、読書バリアフリー法に基づく視覚障がい者の読書環境の整備のみならず、障がい者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進が一層求められることとなった。

 

2 県立図書館におけるこれまでの取組
(1)視覚障がい者等、活字の利用が困難な人に対する取組
令和3年度に全国公共図書館協議会が行った「公立図書館におけるバリアフリーに関する調査」(別添資料1)への回答によると、県立図書館では、読書バリアフリー法の対象である視覚障がい者等(視覚障がい者、読字に困難がある発達障がい者、寝たきりや上肢に障がいがある等の理由により、書籍を持つことやページをめくることが難しい、あるいは眼球使用が困難である身体障がい者)を含め、活字の利用が困難な人に対して以下の取組を行っている。

  • 障がい者等が利用しやすい(アクセシブルな)書籍等の充実
  1. 一般資料室内に大活字本、CDブック、マルチメディアデイジー図書を集めたコーナーの設置
  2. 子ども室に子ども向けの大活字本、LLブック、さわる本等を集めたバリアフリー図書コーナーの設置
  3. 団体貸出文庫に大活字本、マルチメディアデイジー図書、布絵本等を集めたコーナーの設置
  4. ホームページを通じて音声読み上げ可能なコンテンツを含む電子書籍の提供(令和2年度から本格導入)

 

  • 障がい者サービスの提供
  1. サピエ図書館や国立国会図書館等のサービスを利用してダウンロードしたデータの貸出し
  2. 宅配便を利用した本の貸出し

 

  • 読書を支援する環境の整備
  1. 対面朗読室、拡大読書器、音声デイジー再生機やマルチメディアデイジー図書閲覧用パソコンの供用
  2. リーディングトラッカーの貸出し 

 

(2)図書館への来館が困難な人に対する取組
上記(1)に加えて、障がい、交通手段がない等の理由により図書館への来館が困難な人に対しては、以下の取組を行っている。

  • アクセシブルな書籍等の充実
  1. 電子書籍サービス

 

  • 障がい者サービスの提供
  1. 宅配便を利用した本の貸出し
  2. 電話、インターネットでの調査相談、照会サービス等
  3. 市町村立図書館等への協力貸出
  4. 施設、学校等への協力貸出、団体貸出
  5. 絵本、育児書セットの宅配貸出
  6. 図書のWEB予約受付、市町村図書館での受取り、最寄りの市町村図書館での返却

 

  • 施設利用を支援する環境の整備
  1. カウンターに筆談用ホワイトボードの配備
  2. 自動貸出機
  3. 車椅子の貸出し
  4. 多機能トイレ、障がい者用駐車場、車椅子用学習席等
  5. 点字ブロック、点字による館内案内

 

(3)サービスの周知と質の向上
ホームページに「バリアフリーサービス」のページの掲載やリーフレットの作成・配布を行うとともに、障がい者に限らず、読書に困難を抱えている人への理解やサービスに対する職員研修を実施し、サービスの質向上を図っている。

 

3 課題
上記1及び2のような状況のなか、今後、県立図書館が障がい者等の読書環境の整備を進めていくうえでは、以下のような課題を念頭に、検討を進める必要がある。
(1)利用可能な書籍等の収集・提供推進に関する課題

  • アクセシブルな書籍等の収集等
  1. アクセシブルな書籍等は、図書以外の媒体や関連団体が発行する非売品資料など、出版情報を把握しにくい資料が多い
  2. アクセシブルな書籍等は、一般書籍と比べて発行数が少なく、市販の資料だけでは利用者のニーズに応えるのに十分ではない。また、子ども向けアクセシブルな書籍の発行が少ない

 

  • 電子書籍の収集等
  1. 図書館向けに提供されている電子書籍のコンテンツ数はまだ少なく、同内容の紙資料と比較して高額であるため、所蔵点数を増やしにくい
  2. 電子書籍のうち音声読み上げ機能に対応した形態で発行されているコンテンツはまだ少ない
  3. 子ども向けの電子書籍の導入が進められていない

 

  • その他のコンテンツの収集等
  1. 視覚障がい者に限らず利用できる商業ベースのオンラインによるオーディオブックが図書館では所蔵されていない

 

(2)障がい者サービスの提供、周知に関する課題

  • サービスや支援策等の周知
  1. 読書活動を支援するサピエ図書館や国立国会図書館等のサービスが知られていない、あるいは利用する方法がわからない
  2. 読書活動を支援する資料や機器の存在が知られていない

 

  • サービスの使いやすさ、質の向上
  1. ホームページが障がい者、高齢者にとって容易にアクセスできるデザイン、構成になっていない
  2. 一部の障がい者を除き、宅配貸出の送料が利用者負担となっている
  3. 講演、講座での手話通訳サービス
  4. 講演、講座、図書館利用での託児サービス

 

(3)読書を支援する環境整備に関する課題

  • 県立図書館施設・設備の利便性向上
  1. 駐車スペースが狭く、駐車しにくい
  2. 施設、設備のバリアフリー対策が十分でない箇所がある(入口が引戸になっていない箇所、車椅子利用者が利用しにくいカウンター、閲覧席)
  3. 館内の椅子増設(休憩・軽読書用)、休憩、飲水スペース等の設置が必要である
  4. 分かりやすい表現を用いた利用案内の整備等が必要である(点字による館内案内の拡充、音声案内、盲導犬同伴可マークの掲示)
  5. 災害時にだれもが安全に、安心して利用できる環境づくりが必要である
  6. 複雑な避難動線、利用者用のエレベーターが1基のみ)
  7. 視覚障がい者、身体障がい者等の移動時、利用時の介助者がいない
  8. 利用できる公共交通機関が限られ、車を運転できない人のアクセスが不便である

 

  • 読書支援機器等の整備
  1. アクセシブルな書籍等の利用に必要な読書支援機器は、高額なものも多く、自費で購入する場合、利用者の負担が大きい。また、機器の使用方法がわかりにくい
  2. 県立図書館以外の身近な施設に、読書活動を支援する資料、サービスや機器が利用できる環境が整備されていない

(4)サービス充実のための人材育成・体制整備に関する課題

  1. 点訳、音訳、アクセシブルな書籍等の製作を行うことができる人材が全県的に不足している
  2. 技術革新など変化の激しい中、県立図書館、市町村立図書館、学校図書館等関係職員による、障がい者サービスへの理解や支援方法に関する知識は十分とは言えない

 

第3章 基本的な考え方及び取組の方向性

1 基本的な考え方
 上記の現状や課題を踏まえ、次の4つの方向性により図書館サービスの充実を図る必要がある。
〈方向性1〉アクセシブルな書籍等の充実
〈方向性2〉インターネット等を活用した図書館サービスの充実
〈方向性3〉だれもが利用しやすい施設・設備の充実
〈方向性4〉障がい者サービスに係る人材育成・体制整備

 

2 取組の方向性
(1)アクセシブルな書籍等の充実 

視覚障がい者等が利用しやすい書籍等の収集・提供や電子書籍サービスのコンテンツ充実を図る必要がある。

  • アクセシブルな書籍の収集、提供
  1. 市場で流通する資料を中心に、ホームページやカタログ、他県の所蔵情報等から広く出版情報の把握に努め、収集につなげる
  2. 非売品や市販で流通していない等、入手が困難な資料については、関係機関との連携を強化することで、自館に所蔵していない資料でも提供ができるよう努める

 

  • 電子書籍サービスの継続とコンテンツ充実
  1. アクセシブルな書籍等の一つとして電子書籍があるが、音声読み上げ機能に対応しているコンテンツもあり、文字サイズの拡大など、高齢者や視覚障がい者等、読書に困難を感じる人が利用しやすい機能を持っている
  2. 紙の本のようにページをめくる必要もなく、来館も不要なことから、肢体不自由者の読書環境の整備にも有効な資料となりうることから、電子書籍サービスのコンテンツの充実を図る

 

(2)インターネット等を活用した図書館サービスの充実 
視覚障がい者等がアクセシブルな電子書籍や端末機器を入手、利用しやすくするためには、詳細な情報提供が必要である。そのため、だれもが利用しやすいホームページの作成・充実を図るとともに、大分県点字図書館や市町村図書館と連携強化を図り、情報提供の充実を図る必要がある。

  • インターネットを利用したサービスの充実、情報提供の強化
  1. サピエ図書館及び国立国会図書館の視覚障がい者等用データの送信サービス等を利用した資料提供を行うとともに、その利用方法の相談を受け付ける

 

  • 障がいの特性に応じたサービスの充実、情報提供の強化
  1. 障がいの特性に応じたバリアフリーサービスの充実を図るとともに、団体貸出等の資料提供サービスを含め、視覚障がい者等の当事者団体や家族会等の支援団体、また小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校に対する周知を徹底する

 

  • アクセシブルな書籍や支援機器に関する情報提供の強化
  1. 音声デイジー図書等のアクセシブルな書籍の展示会を実施するとともに、拡大読書器、ルーペ、音声デイジー再生機等の読書支援機器の提供、音声デイジー再生機等の端末機器の貸出などを行う
  2. 障がい者向けサービスを紹介するリーフレットの作成・配布等、情報提供の充実を図る

 

  • ホームページを活用した情報提供の強化
  1. 情報を誰もが利用しやすいように、ユーザビリティ、アクセシビリティーに配慮したホームページの作成・充実を図る

 

(3)だれもが利用しやすい施設・設備の充実 
県立図書館は建築後、28年が経過し、経年による躯体の劣化や設備の老朽化による機能低下などが顕在化し、施設・設備の不具合への対応が求められている。また、利用者が使いづらい箇所があり、施設・設備の利便性の向上を図る必要がある。
加えて、近年、多発している自然災害への備えにも配慮する必要がある。

  • 施設・設備のバリアフリー化の充実、老朽化への対応及び利用者の利便性向上
  1. 手すりの設置や、スロープの設置による図書館施設の段差解消、利用者に配慮した
    トイレ等の施設整備を進める 
  2. 不具合施設、設備について、計画的な保全工事を進める
  3. 点字や音声案内、ピクトグラム、やさしい日本語を使用したわかりやすい利用案内を充実させる
  4. 駐車場のスペースを広げるなど、利用者の利便性の向上を図る
  5. 障がい等により来館が困難な人が必要とする移動支援等について、具体的な事例をもとに、関係する他の組織等と認識の共有化を図る

 

  • 多発する自然災害への対応
  1. 利用者が地下駐車場から使用できるエレベーターが1基しかなく、地震等で不具合が発生した場合、障がいのある方の館内での移動が難しくなるため、様々な場面を想定した対応策を検討する
  2. 災害発生時に障がい者等が安全に避難できるよう避難訓練を実施するとともに、委託業者を含めた職員を対象とし、非常用階段避難車(キャリダン)や担架の使用方法の習得等に係る研修を、引き続き実施する


(4)障がい者サービスに係る人材育成・体制整備
県内全ての公立図書館及び学校図書館において、障がい者サービスの充実に努め、円滑な利用を促進するためには、サービスを担う人材が不可欠である。そのため県立図書館が中心となり、必要な知識・技術を身につけるための研修等を実施し、人材育成を進める必要がある。
また、人材育成においても大分県公立図書館等連絡協議会や大分県学校図書館協議会、大分県点字図書館との更なる連携強化と情報の共有を進める必要がある。

  • 人材育成の充実
  1. 「大分県図書館大会」や「大分県公立図書館等職員研修会」において、図書館長や司書、学校司書等関係職員を対象に、「障がい者サービス」や「読書に困難を抱えている方々への支援」に関する最新の動向や好事例を学ぶための研修や講演会を定期的に実施する

 

  • 関係機関の人材育成の支援
  1. 大分県点字図書館において音声デイジー図書などのアクセシブルな書籍の製作に携わっているボランティアに対して、読みの調査等へのレファレンスサービスによる支援を行う


第4章 むすび

今回の諮問を受け、県立図書館の障がい者サービスに係る課題や、これまでの取組を整理し、そのうえで、障がい等により図書館サービスをうまく利用できない人に対するサービスを充実していくための基本的な方向性について、答申としてまとめた。
その際、様々な状況により読書や図書館利用に困難を伴う者への配慮が必要であることから、読書バリアフリー法や「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関する法律」の理念・目的を踏まえることを意識した。
なお、読書バリアフリー法でも地方公共団体で具体的な計画を立て、組織の枠を超えた取組や関係者間で連携した取組が行えるよう努めなければならないとされているように、答申の実現にあたっては、関係する他の組織等との協力・連携が不可欠と考えられる。
今後、本答申に沿って、障がい者等の読書環境の整備がより一層推進されるよう、県立図書館においては、自ら具体的な取組を進めるとともに、他の組織等に対する積極的な情報提供や働きかけを行うことを期待したい。